【ノベル】 死と生と鈴の音と セッション2(著:鮎偽 むくち)

小説

おはようございます鮎偽です。

前回、ヨウという人物が不思議な空間で目が覚め、女子高生(?)に衝撃の事実を伝えられました。

そして最後にヨウにある選択を迫りました。

ヨウがどの選択肢を選んだのか?この時点では私も知りません。どうなったのかはこれから少しずつわかってくるのではないかと思います。

硬い挨拶はここまで。セッション2をお楽しみください。

そこは本当に誰もいなかった。
あったのは無造作に並んだ机と椅子。

夕日が差し込んで、廊下前でまで届く影は、まるで大きな口を開けた狼のようだ。

(ここはどこだろう?)
痛みはない。当たり前だ。机につっぷくして寝ていただけなのだから。

(そうか。補習を受けて帰る前に寝ちゃったんだ。)

それにしても静かな学校だ。

これも当たり前である。補習を受けてたの10名程度で、今は自分一人だけ。外から部活かな?何か人の声が聞こえる。

ゆっくり立ち上がる。出しっ放しだった鉛筆とノートをしまい教室をでた。ここは旧校舎の3階の端っこの教室だ。旧校舎と行っても、増築された新校舎は家庭科や技術科などを行う教室のみの小規模なものなので、実際の教室は全て旧校舎だ。

(さて、帰ろう。)

「ヨウ、ボール行ったぞ!」

そんな時に聞こえてきた外の声。誰の声かはわからない。ただ「ヨウ」はわかった。隣のクラスの男子だ。

なぜかわからないが、抜き足差し足で教室の中に戻る。そして窓から見ると部が練習をしていた。その中にヨウ君がいた。

一瞬でドキドキするのがわかる。

別に話したこともないし会ったこともないのだけど。

ヨウ君を初めて見たのは下校のとき、先輩に彼が絡まれたところだった。

「肩掛けなんてしてんじゃねーよ、生意気だ」

普通なら怖がってるだけ萎縮するだけのところだ。

「すみません。。。」

彼も例外なく怖がっていたのは私にもわかった。

あーあ、また先輩やってるよ。私もそう思っただけだった。

どうでもいい校則(カバンは肩から斜めがけすること)だし、どうでもいい主張(カバンを斜めがけせずに肩にかける校則違反をしてるのは生意気)だ。こういう子供を縛ろうとするルールが、子供の中でさらに子供を縛る道具になることを大人は本当にわからないのだ。

しかし、そこで終わりかと思うくらい沈黙の時間ののち、ヨウ君はこう言ったのだ。

「それじゃ生意気で肩掛けするのはやめます。あ、でも先輩に憧れて肩掛け真似させていただきますね。」

言葉は丁寧にあなたをリスペクトしているという内容だったが、ヨウ君が自分の主義を曲げたくない意思を感じる言葉だった。

転校してきたばかりだから、何が上級生の琴線に触れるのか本当に知らなかっただけだろうに。

それは危なげな強さではあるが、私が興味を持った出来事となった。

彼は転校してきたばかりなのに、友達がいつも周りにいることがよくわかった。自分はこの学校に最初からいるが友達は正直いない。それに対してヨウ君は別の学校からきてから半年という中でいつも友達がいる。

そんな色々な虫を集める暗闇の中の光のように、人々を惹きつけるヨウ君に、私がさらに興味を抱いたのも仕方ないように思う。

 

校庭では、テニス部の有志で集まって練習をしていたが、もうみんな帰ったようだ。

ヨウ君だけが自分のボールを探すのに手間取ったらしく、帰り支度が遅くなったようだ。みんなが帰るのを送りながら帰り支度をしている。

(これは超チャンスかも)

こんなタルい補習にも出てきたは、テニス部の有志の練習とかぶっていたからだ。あわよくばこんなチャンスがあるんじゃないかと思ったから。

教室を出て、テニスコートに向かう。下駄箱で上履きを靴に履き替える。途中で何人かの同級生に会うがみんな、急いでる私が珍しいようだ。ただ、それでも誰も声をかけてこない。避けてるのがわかる。

(いつからだろう?)

確かに自分はソバージュかけたりキンパにしたりしてる。

でも最初はお化粧の延長だったし、みんな大人っぽいって憧れてた。

でも、その内に上級生とつるむようになり、同級生と疎遠になった。

その上級生も慕ってた先輩がなぜか学校に出てこなくなった。それは私の居場所がなくなってしまったことを表していた。その頃には、同級生には私は「怖い存在」「煙ったい存在」そんな感じになってた。

(ヨウ君に聞きたいのは、友達がいなかったところからどう接したのか?そのことだけだ。もしかしたらヒントになるものがあるかもしれない。)

 

夏の夕日は綺麗だった。校庭を赤く染めていた。(今日は雨だって聞いてたけど全然違うじゃん)

たとえ私の顔が紅くても夕日のせいにできるだろう。(いや別に夕日のせいにする必要ないし。てか紅くないし!)

そんな赤の世界の中、一人黙々と帰り支度をするヨウ君を視界にとらえた。

「ヨウ君」

迷うことなく声をかけれるのは、やはり先輩とかと渡り歩いてきて度胸だけはついたからだろう。

ただ声がうわづっていたような気がする。いつものようにドスがあまり効いてなかった。(いや、効かせなくていいんだって)

ヨウ君が振り向く。数秒、逡巡する。

「どうかした?」

それはそうだ、不良の私がこんな時間に学校にいるのも変だし、そもそも誰?って感じだろう。最近は学校も自主休学している。

「私、隣のクラスのミチって言うんだけどさ」

「ああ、知ってるよ。何度か見かけたし」

そう言って笑うヨウ君に何度目かの衝撃を受ける。自分みたいな人間怖くないんだろうか?と思っているとそのことを知っているかのようにヨウ君が言葉を続ける。

「話したことないからさ、怖い人なのかと思ってたわ。でも話してきてくれるなんてどうしたの?」

なんだやっぱり怖いのか、とホッとしたようなちょっと残念なような気持ちを抑える。

今なら聞きたいことを聞ける。友達をもう一度作れるかもしれない。

「テニスなんて面白のかよ」

しかし出てきたのは本当にどうでも良い質問だった。

(あー!また本心じゃないことを聞いてる。)

「テニスは面白いよ、団体競技じゃないけど。相手とのラリーとか相手を負かすだけでなくて、綺麗なラリーを一緒に続けたり。」

「そうなんだ。」

「スマッシュとかで得点取ったり、サービスエース取ってみたり。かっこいいから、それが注目されちゃうんだけど。本当は一緒に練習する方が楽しいな。」

ヨウ君がなぜ友達が多いのか?その断片を見た気がした。彼はみんなで切磋琢磨することが楽しいのだ。

それに比べて、私は先輩たちとどうだったか?喧嘩したり言い合ったりして如何にヘタレない人間かを競っていた気がする。そこに相手を認めて一緒に研鑽するような気持ちはあまりなかった。

よくある不良漫画のように、喧嘩する中で友情が芽生えるなんて正直ない気がする。殴ったり口で争ったあと、仲直りすることもあるが、やはりギクシャク感はあるし。

「だからヨウ君は友達が多くいて、私はいないのかなぁ」

「え?」

珍しく心で思っていたことが口から出てしまった。ヨウ君も「?」って顔をしている。あー!

「ミチさんって友達いないの?」

「あー!なんでもないよ!」

キョトンとしているヨウ君の顔が恥ずかしくて見えない。こんな不良ぶってる格好しておいて「友達がいない」なんて。どんだけ寂しがりやの無い物ねだりだよ。注意を逸らしたくなって、慌てて別の話題を探す。目の前にはさっきヨウ君が集めてたテニスボールがたんまり入ったバックが。

「そのボールの山、持って帰るんだろ。運んでやるよ」

「あ、それ重いから気をつけて」

肩に書ける紐を片方持って持ち上げると、確かに重い。一個一個のテニスボールはめちゃ軽いのに、これだけあると重いものだ。

そう思ったのも束の間、急に軽くなった。横を見るとヨウ君がもう片方の紐を持っていた。

「ありがとう。重いでしょ。」

「大丈夫だっていってるじゃん。」

「自分で持っていくよ」

「大丈夫だって。」

シャラン。

その時、ふと耳に優しい音が聞こえた。

その音に気を取られてるうちに、バックのもう片方を持たれてしまった。

シャンシャン。

ヨウがもった片方こ取手を奪う訳にもいかず、かと言ってあそこまで啖呵を切ったので自分も持ちたい。

そういうわけで二人でバック取手を片方ずつ持ちながら校庭をでる格好となった。

さっきからする涼やかな音が大きくなった気がする。

 

夕焼で照らされたヨウ君の顔が紅い。私も今こんな感じなのだろう。

学校からヨウ君の家は5分と近い。私の家はそこからさらに線路を越えて行かないといけないので、そこからさらに10分かかる。

分かれ道のところまで、二人は無言で歩いた。

「ありがとう、今日は練習しすぎで腕やばかったから助かった」

「そ、そう?別にあんたのためにってわけじゃないから。暇だったから」

「そ、そうなんだ」

あぁ、またやってしまった。でも後悔先にたたず。バックから手を外して、自分の帰り道の方へ2、3歩あゆみかけてヨウ君の方を振り向く。

「じゃ、じゃあ」

聞きたいことは間接的には聞けた。自分的には満足すべき成果だ。そう、これで別れるのが一番いいのだ。他に何か知りたいわけじゃない。

私は歩き出した。ちょっと不貞腐れて前かがみに早足に歩く、いつもの私の歩き方。でも今日は少し足取りは遅い気がした。

「あのさ」

ヨウ君の声が聞こえた。なんだろう?なんか忘れ物でもしたっけ?

「なに?」

いつもの不機嫌そうな言い回しがやっとできた。

「友達いないならさ、俺とか俺の友達とかと友達にならない?」

そう言ってヨウ君がテニスボールを一個渡してきた。

「夏休みにまた学校でテニスやるんだ。そこに来てくれてもいいし、また今日みたいに終わりに一緒に帰るでもいいし。」

そう言いながら、ノートを一冊取り出して、一枚破りとって日にちを書いて渡して来た。

「まあ、興味があったらって感じだけど。」

その間、私は何もできなかった。有志のテニス練習日はすでに知ってたし、テニスなんて全然知らない。

でも、そのテニスボールと破り取られたノートの1ページが信じられなかった。私は友達を作るためのポイントを知りたかっただけ。

そんな私に友達になろうと言ってくれた。

辛いこと言われたり、殴られたりして泣いたことはあったけど、この涙はなんなのだろう。ちょうど俯いて手にしたテニスボールを見ていたのでヨウ君には見えていないのがせめてもの救いだった。

「ありがと」

なんとか搾り出しながら一言。涙が見えないように横を向きながら続ける。

「部活は、たるいし、補習もあるから」

私は今日から変われるかもしれない。それもヨウ君と一緒にだ。

私ははっきりと大きな声で続けた。

「今日みたいに終わったら声かけるから。」

「わかった。じゃあまた明日。ゆっくり片付けしとくからさ。」

そう言ってヨウ君は自分の道を歩き出した。友達にするように私に手を振りながら。

私も手をあげて答える。「バイバイ」なんて、いったいいつぶりだろうか

私はヨウ君が見えなくなるまで見送り、自分の道を歩き始めた。

歩き始めてからやっと、あの涼やかな音が鈴の音だったことに思いが及んだ。

(明日から変わるんだ。明日から学校で話ができる人がいるんだ。)

 

ミチは、今日の自分の頑張りを誇らしく思いながら家へと小走りに歩き出した。この後くる嵐への恐怖なんて全くなくなっていた。

 

次の日、ミチはテニスコートへはやって来なかった。

次の日も、その次の日も。

行方不明になっているとヨウが知ったのは新学期が始まった時だった。

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