【ノベル】 死と生と鈴の音と セッション3(著:鮎偽 むくち)


おはようございます鮎偽です。

前回、ミチとヨウという人物の夏休みの一日が語られました。

ミチがどうなったのか?ヨウはどうしたのか?

これらもこれから少しずつわかってくるのではないかと思います。

硬い挨拶はここまで。セッション3をお楽しみください。

 





そこには誰もいなかった。

それはそうだ。もう残業をしている人間も少ない時間だ。

時計を見ると10時を過ぎていた。

さて帰ろうか。

私は身支度を済ませて帰路へ着いた。

オフィスビルを出るとひどい熱気だった。

(これは熱帯夜だな)

学生の頃はもっと涼しかったんだろうか?

いやいや、やっぱ夏は暑かった記憶しかない。

さすがにこの時間になると電車も混むことなく座れる。

座ってすぐにタバコに火をつけた。帰りの電車でタバコを吸う。

これがいつもの日課だ。

最近は家に帰っても嫁も娘もあまり相手にしてくれない。娘も多感な時期で、まさに反抗期真っ盛りだ。

化粧をしたり、金髪にしたり、それで色々と喧嘩もした。ただ根は絶対いいやつで悩んでるんだと思った。自分も若かりし頃にそういう時期があった。

だからこそ伝えたのは「一緒に何かで競い合える存在」だ。自分も不良してた時、周りにダチはいたが今思えばただただ抗争で有利になるための緩い仲だった。

そんな喧嘩もう半年前になる。それから娘は変わっただろうか?

実際のところよくわからない。ただ嫁の話では、帰りは早くなったという。

ただ逆に速くなりすぎて、学校を早引けしているようだ。

 

そんなことに思いを馳せてる間に地元の最寄り駅に着いた。

タバコを灰皿で消して急いで降りる。

K県の中でも端っこの方であるこの駅ではビルというものがなく、夜空はまさに満点の星空となるのが普通だったが今日はどうも曇っているようだ。

徒歩で15分かけて歩いて帰る。その途中に娘の学校がある。夜だから当たり前なはずだがそれにしても静かな学校だ。

その時、三階の端っこの教室に明かりがついてることに気がついた。

(職員だろうか?)

いまは夏休みの後半だ。休み中も職員が来ていることは知っているが、さすがにこんな夜中までいるだろうか?訝しがっていると雨が降ってきた。

「いかん!傘を忘れた!」

慌てて校門の屋根がある部分へ飛び込んだ。

今日は嵐がくるという予報だったのだ。そのために傘を持ってきたのに、残業で疲れて持ってきた傘を会社におき忘れてしまった。

「ついてないな」

ゆっくりとなんとなく先ほどの明かりの灯った教室を見上げた。

 

見上げる角度が変わったからか、その教室の前の廊下に誰かいるのが見えた。

 

娘のミチだった。

 

彼女もハッとしたように気づいた。そして大声で叫んだようにみえた。

体がはじかれるように勝手に走り出した。校門の扉は鍵はかかっていなかった。

もう中年の自分が階段を2弾飛ばしで走っていくのを他人事のように感じていた。

何が起きているのか?そんなことはどうでもいい。

娘が怖がっていることがわかってるのだ。親ならどうする。娘の手を握ってあげ、涙を拭いてあげる。

それはオートマチックに湧き上がるものなのだ。

3階き行き、そこで見えたのは廊下で泣き崩れている娘だった。そして泣いているミチの声だった。

「大丈夫か!?」

自分でも驚くくらいの大きな声が出た。

娘の元へ駆け寄ると、状況がわかった。

お気に入りの髪をバッサリと切られてしまっていたのだ。

「誰がやったんだ!?」

「。。。気にしないで。自分が悪いの」

「お前が悪い訳があるか!」

急いで周りを見渡すが誰もいない。

ふと横に非常階段があるのがわかった。そこを覗き込むと人影があったのがわかった。

「そこか!」

扉をあけて捕まえようとしたところに、なにか硬い棒のようなもので殴られた。

殴られてばかりではいられない。仕事バックを盾にしながら押し返す。そうすると相手がバランスを崩して倒れた。

ここは3階の踊り場だ。倒れたらそこからは落ちるしかない。

その時、娘がその落ちる人影の手を取った。

自分も慌てて相手の腕を掴む。無事になんとか引き揚げることに成功した。

3人はそこで倒れ込んだ。そして娘にこんな仕打ちをした人間を確かめるべく見た。

「きみは!?」

そこにいたのは、娘の幼馴染で仲が良かったチエちゃんだった。

娘とチエを見比べて、何が起きたのか全くわからなかった私はそれ以上言葉が続かなかった。

嵐は激しさを増し、私はどこか孤島へ閉じ込められたようなそんな焦燥とした気持ちだった。

そのときに廊下を挟んで非常階段の前にある教室の暗闇で息を潜めていた何者かが、静かに両手に持った何かを三人めがけて振り下ろそうとしていた。。。

 

そして、この日から数日経った新学期、ミチが父親とともに行方不明になっていることをヨウは聞かされるのだった。

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