【ノベル】 死と生と鈴の音と セッション9(著:鮎偽 むくち)

小説

こんにちわ鮎偽です。

「死と生と鈴の音と」をお送りいたします。

セッション9をお楽しみください。

『鈴黄泉町(りおせんちょう)へようこそ!』

はやる気持ちを抑えて、盆地のくぼみにできた温泉街に向かって坂を降りていく。
チエの台詞そのままの看板が二人を出迎える。

街はこんな山奥なので寂れているかと思ったが、ものすごく活気があった。
なぜなら今週末からお祭りなのだ。とチエはヨウに教えてくれた。

この街の祭りは特別で、巫女が舞を奉納した後、街の人間に御神(真)言を伝えるのだそうだ。
こんな山奥だし、街のみんなの楽しみな行事であったのは今も昔も変わりないそうだが、チエが言うには
昨年からその注目度は桁違いに高くなったそうだ。

彼女は街の中心街に向けて歩きながらその理由をヨウに語り始めた。

なぜ注目度がそこまで高まったのか?
それは御神(真)言を伝える役の巫女が変わったからだった。
巫女が変わることはよくあることだ。それ自体は何も注目することでもない。
注目されているのはその昨年から巫女を務めている女性が「千里眼」の異名を持つ女性だったからだ。

なぜ彼女がそんな異名をもつに至ったのか?それは彼女がこの街にやってきた数年前にさかのぼることになる。
彼女はある時期からこの街にひっそりと身を寄せるようになったのは今から数年前だった。
街に来た頃の彼女は誰も気に留めることもなかった一人の女性だった。と言うか誰も気にも留めない存在だった。
普段は言葉を喋ることはなかったし、そもそもこんな若い女性がこの街に来ても居つくことなどないのだ。この街には若い子が目を輝かすようなファッショナブルなお店やネオンなどから程遠い街だ。だからいつか気づかないうちにいなくなるだろうと誰もが無意識に思い気もかけてなかった。

彼女がこの街に来て数ヶ月たった頃、街に住んでいた子供が一人いなくなってしまったことがあった。
町の人間が総出で探したが二日経っても手掛かりすら見つかることはなかった。
もう森の奥深くに迷い込んでしまったとしか考えられず、男連中で森の深部へと向かう準備していた。
その時、何の前触れもなく対策本部のある町役場のドアが力強く開かれた。
そして一人の女性が迷いもなく入って来て、傍にあった地図を取り上げ凛とした声で
「みなさんが探している子はきっとこの3ヶ所のどこかにいるわ。」
と言いながら森の中の2ヶ所と、街の中の1ヶ所をマークしていった。
そのマークしたところを見て、男連中は彼女に掴みかかって言った。
「お前、こんな時にふざけるなよ!」
「この森のマークしたところは、いの一番に見たところだ!」
「そこは彼女の通う幼稚園だ。通報された時点で満たし、そこには誰もいなかった。」
彼女は彼らのその行為も言葉をも否定しなかった。そして自分の言葉を肯定もしなかった。
「少なくともこの3つの場所にはその子が大事にしていたものがあるはずよ。」
そして、町役場を去った。ただドアから出るときに一言だけ呟いて
「迎えに行ったげて。」

半信半疑どころか誰も信じているわけでもなかったが、他に手掛かりらしいものもなく、その三ヶ所を再度調べた。
そして、彼女がマークした森の2ヶ所には、一箇所からは車輪が壊れた三輪車が発見され、もう一箇所からはその子供がバックに結びつけていたお守りが見つかった。しかし、子供は見つけることはできなかった。

その夜、行方不明の捜索に参加していたその子供の幼稚園の保育士らが一旦荷物を取りに園に戻った。その時、誰もいないはずの園の一室に電気がついているのを見つけた。
「誰かいるのか?それとも付けっぱなしだったのか?」
電気がついている部屋は園児たちがいつもお昼寝する場所だった。
保育士たちが恐る恐るそっと開けると、そこには今まで必死に探していたその子供が寝ていた。
山で歩き回ったのか全身泥だらけだったが、まさしくその子供が探していた女の子だったのだ。
奇跡的に擦り傷くらいの怪我だけで、本人は疲れたのかぐっすり眠ってしまっていた。

翌日になって女の子に聞くと、不思議な光に誘われて山の中に入って行ったが、三輪車が壊れてしまッたのだそうだ。仕方なく三輪車を置いて帰ろうとして歩き出したが、バックが木の枝にかかってしまい、大事にしていたお守りが外れてしまったとのこと。この時点でもう周りは暗くて道がわからなくなっていたようだ。そこに男性が声をかけてきたそうだ。見たこともない人だったが、もの静かで優しい人だったとのこと。疲れていたのか、そこからの記憶がなく寝てしまったようだ。気づくと幼稚園の中にいたがどこも鍵がかかっていて出られず、お昼寝の布団にくるまって朝になるのを待っていたそうだ。

この事件は、最終的には「ただの子供の迷子」と判断されたが、当時の捜査線上では、この森にいたという男性が最重要人物ということで捜索が行れた。しかし、見つけることはできず、結局この男性の話も子供の見た夢の中の人物ということで落ち着いたのだそうだ。

そして、この予言のようなものをした彼女は「千里眼ではないか」と噂されるようになったのだ。

「この不思議な話はすぐに街中に知れ渡ったわ。私の耳にもすぐにその噂は届いたの。」

街中を二人で並んであるきながら、チエは話しを続けた。

「そして驚いたのが、その子が私たちと同じ歳だったということ」
「え、同級生ってことか?うちらと。千里眼なんていうから、なんていうかもっとおばあちゃんなイメージで聞いてたよ」

ヨウは率直な感想を言う。

「そうだよねー。それでね、私彼女に会いに行ったんだ。」
「え、その千里眼に?」

その時、ちらっとチエはヨウの方をみた。すぐに視線は歩く方向に戻ったが何か躊躇われる視線だった。
そして、ちょっと足早になりながら迷いを振り切るように言った。

「その子、とっても可愛かったの」
「そ、そうですか」
「そうなの。だからヨウは見ちゃダメだよ。私がいいって言うまで」

そう言い終えるのと、目的地に着くのが測ったように一緒だった。

突然、目の前に小綺麗な黒と白を基調とした旅館(民宿?)が現れた。
のれんには「鈴鳴館」と書いてある。そして、やはり「鈴鳴館」と書いてあるエプロン姿の女将さんがやってきた。

「こんにちは、うちの娘がいつもお世話になってます。。。私が母のノリコです」

「え?」

不意打ちもいいところだ。全く予想だにしてなかった言葉が女将から出て来た。
チエと女将の顔を交互に見るが、どちらも笑顔でこちらを見ている。
確かに似ているとも言えなくもない。

「ど、どうも。いつもお世話になってます。ヨウといいます」

ヨウは慌ててとりつくろったが、動揺を隠しきれない。やはりチエの母親となると緊張せずにはいられない。
しかし、ノリコさんは忙しいようで

「じゃあまた!後でゆっくりチエのこと聞かせて」

と言うと別のお客様の対応を始めた。
旅館は満室のようだ。ヨウ達以外にも帰郷でかそれともどこからか噂を聞きつけてか旅行客でごった返していた。

「これが千里眼効果か」
ヨウが呟くとチエがもう一度言った。

「ヨウは千里眼、まだ見ちゃダメだからね!?」
冗談なのか本気なのか全くわからないなっと思いつつも、真剣な面持ちで頷くヨウだった。







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