【ノベル】 死と生と鈴の音と セッション5(著:鮎偽 むくち)

小説

おはようございます鮎偽です。

前回、大学生のヨウは運命的な出会いをします。

しかし、それは本当に運命的だったのでしょうか?それとも人為的なものだったのか?運命は変えられる。

とにかく、ミチの髪型と似ている謎の女性チエという人間が今後どんな影響を与えるのか。

硬い挨拶はここまで。セッション5をお楽しみください。

そこには誰もいなかった。

「…はぁ、…はぁ」

一体何がおきたのか、把握できるまでに相当な時間がかかった。

チエは岸壁に押し上げられていた。
その体は恐怖と冷たかった海水のため、ガチガチと震えている。
その時、後ろから荒いが優しさのある言葉がかけられた。

「君はとにかく生きるんだ!」

そこで、全てを思い出した。
自分がしてしまった過ち。そして、そこから生まれた悲劇と惨劇。
あの出血だ。そしてこの海だ。彼はもう助からないだろう。

チエは、自分を押し上げた人物を引っ張ろうと海水面に向かって手を伸ばした。
だが、その人物はチエの手を押しのけて叫んだ。
「まだ、ミチがいる!」

そう言って、その人物は荒れ狂っている海へと戻ってしまった。
自分は何もできなかった。

息をすることも禁止されたように息を殺して、待った。
波しぶき以外のものが海面に浮かび上がってくるのを。
しかし、それはついに叶えられなかった。

「…あああああああああああああ」

チエは声にならない叫び声をあげた。

この日、非常に強い大型の台風が日本を直撃した。波にさらわれるなど全国的に被害をもたらした台風は、次の朝には日本を抜けて、何事もなかったかのような晴天をプレゼントしてくれた。

そして、ある家族の父と娘が消息を絶ってしまったのも、この嵐の次の日からだった。
母であり妻である女性は、その数ヶ月後に引っ越してしまう。

誰が流した噂でもないが「夜逃げしてしまった」などという噂が立つほどに、周囲には何もわからないまま一つの家族がなくなってしまったのである。

噂といえば、消息を断つ前の夜、つまり嵐の夜、複数の高校生が騒ぐ声を聞いたというものがあった。警察も調べてはいたようだが、その夜に所在が不明になった同校の生徒は、
消息を絶った子以外はおらず、近隣の学校の生徒なども確認したが、不可解なものはなかった。

また噂ではなく、これは本当にあった話だが、嵐の夜から数日後の夜に、全身ずぶ濡れの中年男性が海辺でタバコを吸っていた。その男性は大声で泣いていたそうだ。あまりにも不可解なことではあったが、さらに不思議なのが、その男性が去った時におき忘れたものがあった。それはまだ数本しか吸っていないタバコのケースと安物のライター、そして3つの鈴だったそうだ。

その頃、ちょうど流行っていた怪奇現象ブームなどで「透視」や「念道力」など、さらには手力と書いてハンドパワーなど、怪奇なのかマジックなのかそう言ったものが全国的に流行っていた。
ミチやヨウが住んでいたK県に隣接するS県でもそれは例外ではなく、S県では「千里眼」という異名をもつ人間の噂がよく上がっていた。ずぶ濡れの男によって助けられた女性が「千里眼」でも持っているかのように全てを見抜く力を持っていた。などが噂の大半だった。しかし、実際にそんな女性がいたのかは何も記憶に残っていない。

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