【ノベル】 死と生と鈴の音と セッション1(著:鮎偽 むくち)

小説

おはようございます、初めまして、鮎偽です。

今回、管理人の方の協力のもと、本サイトでオリジナル小説を投稿させていただくことになりました。※タイトルでわかるようにいたします。

ここのサイトのものとは毛色が違いますが、お楽しみいただければ幸いです。硬い挨拶はここまで。お楽しみください。

そこは本当に何もなかった。
あったのは机とその上にある乾ききったコップ。
横には所在無げに転がっている椅子。

(ここはどこだろう?)
未だにまだ胸を強く手で抑えている自分がいる。
しかしすでに痛みはない。

(助かった? のだろうか。)

それにしても静かな病院だ。

(病院であればだけど)

部屋には先ほどの机と椅子以外には、自分が寝ているベッドだけのようで、どうやら個室の病室らしい。

怪我のせいだろうか赤くなった脱脂綿が散乱している。

(手術が終わってるなら片付けとけよ。)

尋常ではないその脱脂綿の量に一つ思うことがある。それは。。。

(多分ダメだったんだろう)

意外にも冷静にそう受け入れられた。

そうすると今のこの状況はよくわかる。ここは現世ではないのだ。

いわゆる死後の世界。

(初めて来たな)

「当たり前だ!」

そこには不思議な物が立っていた。服装は凄い古臭い漆黒のセーラー服で髪型はセミロングにソバージュが掛かった金髪だった。一目で不良とわかる。

「てめぇ何見てんだよ」

(いや声かけてきたのそっちだし)

そんな風に思っていると、何かを感じた不良少女が驚いたように声をかける。

「あれ?おっさん、もしかしてヨウ君?」

(確かに自分はヨウという。しかしこの子はなんでそれを知っているのか)

「あははは、そっか。最初分からなかったよー。だって、そんなメガネかけてヒゲ生やしておっさんなんだもの」

(おい!たしかにおっさんだけど、見ず知らずの子供におっさん呼ばわれされるのは嫌だぞ。くさっても男、かっこよく思われたいんだから!)

「大丈夫だよ。昔は超かっこよかったんだよねー。」

(ところでここはどこなんだ?きみも入院患者?いやお見舞いか?)

「ヨウくん、最後の記憶ある?」

(あぁ、意識が朦朧として、何もかもが薄暗くなって行って。まずは音が聞こえなくなって、視界が狭くなって。。。)

「…違うよ。そのもう少し前の記憶かな」

(もう少し前?)

ふと枕元を見ると、この部屋で唯一見慣れたものがあった。

某キャラクターメーカーが作ったマスコット。猫をモチーフに可愛くデフォルメしたキャラクター、ケティちゃんというやつのヌイグルミだ。

女子をターゲットにしたそれは絶大な人気がある。

そうだ。確かこいつを拾おうとして。。。しかし俺はこんなもの買わないな。

「そっか」(そうだ!)

「娘さんがいたんだね」(娘のものだ)

そのときに全てが分かった。俺はやはり死んだのだ。それも娘のぬいぐるみを抱きながら。

(娘は無事だろうか?)

「それは大丈夫だと思うよ。ここには亡くなった者同士で強い繋がりがあれば一緒に連れて来られる。でもヨウくんだけだった。」

もし娘さんと二人で来ていたら、二人が望めば、こっちの世界で家族が来るのを待つこともできたし、生まれ変わりたいならその順番を二人で待つこともできる。

ちなみに、マイナス思念で誰かと一緒にここにきた場合、例えば、その死にどちらかが問題があれば、その話し合いをしなくちゃ行けない。例えば殺人の被害者とその殺人者が自殺した場合、2人が一緒にここに連れて来られる。そしてそれぞれの言い分を聞き、殺人者に非があれば、殺人者の魂は消滅させられ、そのエネルギーを被害者は自分の好きなことに使えるの。それはすごい力で、負のエネルギーが強ければ強いほど凄いパワーなの。だから過去にはそれを元に生き帰る人もいたよ、数例だけどね。

(つまり今ここに娘がいないってことは生きている)

「そうだね。でも子供が居たんだねー。結婚したの?キスとかしたの?」

(なに聞いてくるんだ)

「キスとかさ、めっちゃ恥ずいよねー。もうキャーって感じ」

(以外に純情か。それにしても死んじゃったのはわかったけど、詳細が思い出せないし。もう娘にあえないのか。)

「そうだね」

死後、すぐに死の世界に来るわけではない。数時間かもしれないし数カ日後かもしれないが目を覚ます。あなたの場合は、もう半年立っているの。

そして死の世界で目覚めたものは一つの選択をする。

⑴生まれ変わる

魂も足りてないので、結構サクサクと次の人生へとステップできるの。

これはもちろん、ある程度の徳がある人であり、私たちが認めた人間にのみだけど、多くの魂に大体は付いている選択肢。あなたにももちろんついてる。浮世に行く必要がないからオススメ。

ちなみに、一緒に生まれ変わりたい人がいるなら、待つこともできる。それは私たちがその理由に納得できたらだけど。

でも待っている間に、向こうも現世で生活してるからね。ここにきた時にお互いにどう判断するのか?それはわからないけど。

⑵現世に影響を与える

ただし、できることは限られている。あなたと影響を与えたい人との思い出があるものを動かすだけ。これは思い出の量によってできる影響度や回数が違う。そして、それにより影響を与えたい人にどう受け取られるのかはわからない。そして、現世に影響を与えたものは、ある一定の条件を満たさないと、半永久的に浮世で彷徨う。浮世では何も手を出せないし、最終的にはあなたと関わりのある人間もいなくなり、本当の孤独を体験できるわ。そして、孤独に耐えきれず魂のバランスが崩れたものを神様が再結合させて新たな魂を作るの。稀に耐え切れる魂もあるけど。その魂がそのあとどうなるかは私たちも知らない。

⑶現世に戻る。

あなたの信用度により期間も決まっているが、その期間だけ現世に戻り、成したかったことを成すことができる。できるかどうかはあなた次第だが。しかし、これはその期間がきたら現世での死とともに、その魂は本当に消滅する。

 

「さあ、ヨウくんはどれを選ぶのかしら?」

 

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